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This is the story about you.

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 「英語を覚えながらマジックを学べる」という、英語とマジックの初心者を対象にした真面目な本の最終校正を終え、赤ペンで真っ赤に修正した校正原稿を出版社へと送りだし、ホッと一息ついていたある日のこと。突然、自宅の電話が鳴りました。それは私の担当をしていただいた編集者、Wさんからでした。

Wさん「yukiくーん、や、やっと本ができたね! よ、良かったね!」
私『すべては御社随一の切れ者、Wさんのおかげです<(_ _)>』
Wさん「ξ*〃〃)ξ<そ、そんな持ち上げても、な、何もおごらないからねっ!…ツ、ツンデレじゃないからねっ!」(注:ちなみに、Wさんは高校生の娘さんをお持ちの良きマイホームパパです)
私『なーんだ残念(´・ω・`)…そういえば、本のタイトルどうしましょうね? 腰巻き(注:本に巻かれている広告の帯のこと)のキャッチコピーはあれで良いとして…』
Wさん「あ、あのね、も、もうタイトルは決まったよ!(≧∇≦)b 」
私『へ?(°口°;) なんにも聞いてないですよ?』
Wさん「売れるように願いを込めてうちの営業の人が決めてくれたよ! 良いタイトルだよ! その名も…」
私『(ゴクリ…)その名も…』

Wさん「『英語でペラペラマジック』! どうどう??(^-^)V」

私『Σ(゚Д゚;|||) …マジっ…すか?』
Wさん「うん、も、もうこれで入稿しちゃったから。ぜ、絶対売れるよ~!ヾ(>▽<)ゞ」

 あまりに突然の告白に意識が薄れていくなか、この何とも軽く、胡散臭さとツッコミどころ満載のタイトルにどこから突っ込もうかと考えていました…。
 そして私の著作 『英語でペラペラマジック』(東京堂出版刊、2006年)が上梓されました。はい、このやりとりは本のタイトルが決まった時の実話です。あぁ、もっと格好良いタイトルが良かったです。でも、今では話のネタとして重宝しておりますので、逆に美味しく思っております。

 この本が企画されたきっかけは、偶然の出来事でした。この本の出版がされる数年前、素敵な女流マジシャンのYさんと同じ出版社の編集Nさんと私の3人で呑みに行くことになりました。
 すると、Yさんの大ファンである編集者Wさんがこの呑み会の話を聞きつけて、急に合流することになりました。

 呑みながら話している間に、マジック絡みで一般書作ったら面白いんじゃね?なんて話になりました。
 「マジックでダイエット(シルクの振り出し100本で、あなたの二の腕がほっそり!)」とか「マジックで腰痛が治った!(イリュージョンのインタールードを使用)」、「マジックで視力アップ!(カードマジックの技法グリンプスを1日1回15分)」や「マジックで宝くじをゲットだぜ!(君はデレン・ブラウンか!)」などなど、次々とみんなで怪しい企画を立てている間に、Yさんが「マジックで英語をマスターなんてどう?…なんてね!」という発言をされました。
 それに急に反応したのがWさん。Wさんは英語学習関連の本の編集のプロで、一般の読者が英語に馴染むための本を企画したいと常々思っていらっしゃったそうです。「そ、それ良いね!yukiさんは翻訳とマジックの両方得意でしょ? き、企画書を書いてもらえないかな?」これで決まりました。あまりに突然の出来事でした。
 でも、実はこんな本を書いてみたいなぁと思っていたのです。

 この本を執筆した理由の1つは、この本の冒頭に書いたように、私のように英語が苦手な方にちょっとでも英語と付き合える(決して無理に好きにならなくても良いと思います。無理なものは無理ですから)、そのきっかけになる英語の入門書を書いてみたかったということがありました。
 もし、英語が苦手で、あれだけもがき苦しんだ自分の学生時代に「英語が辛い? 気にすんなよ。大丈夫、僕を見てごらんよ。これでも何とかなるんだぜ!」と肩を叩いてくれるような本と出会っていたら、どれだけ精神的に楽になったことか。
 もし今、仕事や学校などで義務として英語とどうしても向きあわなければならず困っていらっしゃる、そしてマジックにも興味を持たれている皆さんの肩をポン!と微力ながらも叩けたら良いな、と思ったからです。

 それに加えて、ある決定的なきっかけがありました。この話が出るほんの数週間前の出来事でした。

 私の友人にJさんという方がいます。彼は生粋のニューヨーカー。自身のプライベート・ブランドを立ち上げ、新進気鋭のデザイナーそしてアーティストとして、現在は東京を中心に大活躍されています。
 彼とは共通の友人を通じて、ニューヨークで知り合いました。洋服のセンスが素敵(デザイナーだから当然ですね)、いわゆるイケメン(なんとモデルとしても活躍中)、なおかつ性格が良くって話も面白く、おまけに賢く勉強家という完璧超人。
 日本のサブカルチャーに興味があり、小津安二郎監督などの古きよき時代の日本映画(実は小津映画は大変モダンだ、という話題で盛り上がりました)や日本のCMデザインの話などを二人でよくしていました。
 彼はマジックが大好きで、私の先生Jamyの下でマジックを習っていたこともあり、たちまち親しくなりました。
 さらに凄いのは、彼はマジックの腕前がバツグンなのです。マジックの歴史や知識にも明るく、技術もさることながら、彼が考える演出は大変賢いものでした。デザインや近代美術の研究を長年されていたこともあり、マジシャンが思いもつかないような切り口でマジックの演出や演じ方を考えていらっしゃいました。
 また、ギャンブラーが行うイカサマのテクニックに精通していて、彼の行う「バハマ・ディール」という超絶技巧の応用は、まさに眼福でした。

 Jさんが、日本人の奥様とニューヨークから東京へ引っ越してくることになりました。東京のマジックショップを教えて欲しいということで、彼が引っ越してきた後にいろいろな有名店を巡り、楽しい一日を過ごしました。
 マジックショップを案内した後日、彼から電話があり、一緒にお茶を飲みに行きました。そこで、彼からこんな話を聞いたのです。

 Jさんは仕事の途中で茅場町の近くに行ったので、その地にある有名なマジックショップへ立ち寄りました。
 店の中でマジックの商品や専門書を品定めしている時、まったく身も知らずの日本人の奇術愛好家の方から「君もマジックをするのかい?」と英語で突然声を掛けられ、喫茶店に行かないか?と誘われました。突然の話にちょっと戸惑いながらも、その提案を無下に断るのも悪いし、英語を話せる人のようだし、ちょうどお茶を飲みたかったというのもあり、連れ立って喫茶店へ行きました。

 席につくと、その愛好家の方は自己紹介代わりに名刺を1枚Jさんに手渡すやいなや、1組のカードを取りだし「ちょっと見てくれないか?」と言ってマジックを始めたそうです。   
 それは、ただギャンブルのテクニックを延々と行うだけのものでした。そう、Jさんはテーブルの上にカードを配っていくだけの作業をただ見ているだけ。しかも、明るい昼下がりの、周囲には多くのお客さんがいる喫茶店のテーブルで。
 周囲からの痛い視線を感じたJさんは、大変居心地が悪かったそうです。でも「もう二度とこの喫茶店には来ないだろうから」と苦笑しながらも、その様子を見ていました。
 先にお話しした通り、Jさんはギャンブルテクニックの素晴らしい研究者です。話をここまで聞いたとき「うわ、これ、なんて釈迦に説法!」と思いました。

 愛好家の方がひとしきりカードをテーブルの上に配り終えた所で、満足げな表情で「次は君の番だよ」と今使ったばかりの1組のカードをJさんに手渡してきました。彼は困惑しました。
 こうしたマジックの見せあいを、海外では"Session"と言いますが、これは親しいマジシャン同士が研究成果を見せあって技を磨くため、またはお互いの噂を知っていてお互いの仲を深める目的で行うものであって、いきなりこんな具合に、しかも初対面で衆人環視の下で行うことは聞いたことがありません。

 そこで彼は考え、彼がお気に入りにしているマジック、プロフェッサーと言う名称で世界中のマジシャンから尊敬されていたDai Vernon氏のあるカード・マジックを、彼独自の演出と共に演じました。そのマジックを私も見せてもらったことがありますが、方法を知らない方なら絶対にビックリする不思議なマジックです。

 件の愛好家の方は、Jさんのマジックを見て文字通り「開いた口がふさがらない」ほど驚いたようでした。多分、この愛好家の方は、Jさんがそこまで不思議なマジックを演じるとは思ってもいなかったのでしょう。しばらく沈黙が続きました。
 そしておもむろに、その愛好家の方が口を開きました。「それ、どうやってるの? 教えてよ!」
 Jさんはビックリしました。初対面の、しかも身も知らない人に、どうして自分が大切にしているマジックの秘密を教えないといけないのでしょう?
 流石のJさんもこれには参って「どうして教えないといけないの?」と愛好家の方に聞きました。すると、この愛好家はこう答えたのです「だって、僕たちはこうして友達になったじゃないか!」
 困り果てたJさんは仕方なく「ごめんなさい、僕とあなたは友達でも何でもありません」と言い、お茶代をそっとテーブルの上に置いてその場を去りました。

 この話を聞いて、私は愕然としてしまいました。

 Jさんは真面目な表情で話を続けました。
 「彼のテクニックは、まあ良かったと思うよ。でも、それはマジックじゃない。退屈な、ただのテクニックの披露、腕自慢さ。別に無理に英語を話さなくても良いし、難しいことを見せてもらおうなんて、僕は思っていないよ。ただ楽しませて欲しいと思うんだ。彼が何を感じ、何を思ってマジックを演じているのか。僕はそれを知りたいんだよ。
 世の中に簡単なマジックなんてないけれど、方法が単純なマジックでも演出一つで本当に面白いマジックになるし、その演出だけでその人の賢さは分かるじゃないか。yuki、分かるだろ? 英語が話せることが本当に凄いかい? テクニックが出来ることが本当に凄いかい? でも、相手と意志疎通出来なかったら最低だと思わないかい? 意志疎通できない人とは、僕は友達になんかなれないよ」

 普通、英語を話しながらマジックを演じる機会はあまりないかもしれません。しかも、英語を話すこととマジックを演じることは、演者にとって確実に大きなストレスを与えるでしょう。でも、それは日本語でマジックを演じても同じなんだと思うのです。
 折角、時間をとって自分のマジックを観ていただくのですから、相手に分かるような言葉を選んで、伝えるべきことや伝えたいことを確実に伝えなければならないのです。その上で、観客への配慮がなされないといけません。
 英語でマジックを試演していただくと分かるのですが、演者のストレスを少しでも軽減するために、伝える物事の優先順位が自ずと決まってきます。すると、演技の構成がハッキリと見やすくなるのです。ここで、初めて意志疎通ができるきっかけが生まれるわけです。
 それを無視して口と手が勝手に動いているだけでは、その演技は観客にとって、単なる視覚的、聴覚的な雑音にしかなりません。

 そのことに、この本をお読みになられた方には気づいていただきたい、と思ったのです。英語が話せることなんて実は二の次で、あなたと対峙している相手とマジックを通して意志疎通をすることが一番なんですよ、と。英語はあくまでそのためのツールに過ぎないのですよ、と。あなたが何かを演じたり、観客を楽しませること以前に、観客と意志疎通するこそがマジシャンがすべき最初の仕事なんですよ、と。そうするためには、観客に何を伝えたいのか、自分が分かっていないと意志疎通はできないんですよ、と。

 私は奇術愛好家の方向けというよりは、英語が苦手でマジックに興味のある一般の方のためにこの本を書きましたので、愛好家の方にはゆるい内容に思えるかもしれません。その通りだと思います。基本的なマジックを中心に解説しましたから。
 でも、こうした基本的なマジックも、何を伝えたいのか観客に伝わらなかったら、まったく意味のないものになってしまいます。それに、英語を話しながらマジックをするならば、手に意識が向けられなくても演じられるようなマジックを選んだほうが得策だからです。

(ちなみに、万一間違って買ってしまった愛好家の方のために、その方にも楽しめるようにこの本にはある仕掛けをしてあります。実際、何度か書店に立ち寄って、この本を使って友人、知人にその仕掛けを使ったマジックを演じたこともありました。その仕掛け、マジックショップでも入手可能なんですが、本に組み込んだ方が絶対に面白いはずです。もちろん、このアイデアの使用許可も頂いています。この仕掛けは、親友Richardにも褒められました)

 実際に、奇術愛好家ではない読者の方に「英語が苦手という著者の、その文章に励まされ、そして実際にマジックを演じてみたら、海外の方と話すきっかけ作りにもなりました。苦手な英語にちょっと慣れたかもしれません」と言っていただいたことがありました。
 読者の方からの意見で、これ以上に嬉しいことはありませんでした。筆者冥利に尽きるというものです。それこそが、私の狙いだったのですから。
 
 この本は「一体誰のための本なのか分からない」という奇術愛好家の方からの意見もあったようです。私はこう答えるだけです。

This is the story about you./これは君のことを言っているんだ
ー佐野元春「Visitors」

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Author:yuki_the_bookworm (a.k.a "べたねば")
何げない日常の中の、本と料理とマジック。

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