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ゆで卵の謎ー『世界のトランプ手品』(Part 1)

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 今回ご紹介する本は、奇術博士として高名だった、亡き高木重朗先生の翻訳本『世界のトランプ手品』(ジョン・スカーニ著、金沢文庫刊、1973年)です。原著名は『Scarne on Card Tricks』(Crown Publishers Inc.刊、1950年)になります。カードマジックの初心者向けの著作の中でも、名作の1冊に数えられる本です。



 ジョン・スカーニ氏(1903年~1985年:本名オーランド・カメロ・スカニッツィア)は、イタリアから移民してきた両親の下に育ち、ハイティーンの頃にいかさまギャンブルのテクニックに出会い、その方面に傾倒していきます。しかし、敬虔なカトリック信者だった母親に大反対され、いかさまギャンブルを練習する代わりに、マジックを練習するように懇願されてしまいます。しかし、持ち前の練習好きが功を奏して、その卓越した才能はすぐに開花していきました。
 1938年には「(当時のアメリカにおいて)カードの使い手ベスト10」に選ばれ、1940年にはニューヨークの“インナーサークル(ダイ・ヴァーノン氏やホロウィッツ氏、ドク・エリオット氏など、ニューヨーク在住の超一流マジシャンや研究家だけが入会できたプライヴェートなマジシャンの集まり)”へ迎え入れられます。

 そして、ニューヨークを中心に活動し、マスメディアに「超一流のギャンブルテクニックの持ち主」として登場し、いかさまギャンブルの実演、テレビや映画のコーディネーターなどをして有名になりました(これに続くのが、フランク・ガルシア氏であり、先日来日したダーウィン・オーティス氏であり、現在ではポール・ウィルソン氏をイメージするとピッタリでしょう)。ご本人自身も、結構渋いイケメンですから、タレントとしても受けが良かったのかもしれません。

 以前、古いテレビ番組を収録した8ミリフィルムを拝見する機会があり、そのフィルムからでも、凄いテクニックの持ち主だったことが分かりました。もともとマジシャンだけあって、マジック的な賢いサトルティーを随所に盛り込み、実際にはテクニックを使わないので、愛好家の方でもコロリと騙されるような演技をされるのです。それ以外にも憎い演出を随所に取り入れていました。その一部をこの映像で観ることができますね。
 ところが、1956年に自身のゲーム会社を立ち上げてからは、一番好きだったゲーム製作に没頭して、マジックの世界から遠ざかってしまいました(丁度この年に同じ出版社から、自叙伝『The Amazing World of John Scarne』を出版しています)。氏の自信作だったTeekoというゲームが一番世に知られたゲームなのですが、残念ながら今では忘れ去られたゲームになってしまいました。しかも、一日にしてゲームの在庫が水没してしまう不運にもあってしまい、結局はこのゲームから利益を得ることはなかったと言います。

 この『世界のトランプ手品』には、技法はほとんど使わない作品しか掲載されていません。そして、あくまでも一般向けの著作として出版されています。
 1950年といえば、氏がマスメディアに積極的に登場して世間でかなり有名だった時代です。パブリシティーとしても、こうした著作は氏のプロモーションの一環となったのでしょう。
 この著作以外にも、その後『Scarne's Magic Tricks』(Crown Publishers Inc.刊、1951年)や『100 More of Scarne's Magic Tricks』(Cornerstone Library刊、1963年。これは上記“Magic Tricks”の後半部分をペーパーバック版として出版した本)という一般向けのマジックの本も出版されていきます。



 本書に関しますと、まずその作品群の素晴らしさにまず驚きます。当時、脂の乗っていたマジシャン(ダイ・ヴァーノン氏を筆頭に、アネマン、ル・ブラン、ソゥル・ストーン、ダニンジャー、カーライルなどの各氏)が考案した、ほぼ技法を使わない作品を許可をとって掲載しています。そして、その作品の選球眼の良さにも驚かされます。
 ただ、こうした技法を使わないマジックを取り上げるとなりますと、どうしても「スペリング・トリック(単語を綴りだしながら、カードを配る操作をして行なうカード当て)」や数理的なトリックが多くなります。なので、ちょっと退屈に感じるマジックが混じっていることは否めないでしょう。しかし、それを除いても素敵な作品がゾロゾロ登場します。その内のいくつかの作品は、私が今も頻繁に演じる作品となっています。

 また、原書と邦訳版のイラストが素敵です。原書の方はスカーニ氏と思しき渋いマジシャンがカッコ良く描かれています。それに比べると、邦訳版のイラストはホンワカしたイラストなのですが、現象が何なのかが良く分かるのです。

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ちょうど、こんな感じです。
 
 残念なことに、紙面の関係上邦訳版には最初の75作品しか収録されていません。残りの75作品にも素敵な作品が多く収録されています。サイステビンス・システムから、フランク・ガルシア氏の名作「ミラクル・デック」(本当に氏の考案かどうかは、ちょっと疑問が残ります。あまり知られていませんが、クリス・ケナー氏はこのデックの使用法にかけては世界随一だと思います)、ハリー・ロレイン氏の“読心術”など、列挙に暇がありません(これらの作品に関しては、一部が名著『カードマジック事典』に解説されています)。出来ることなら、この後半部分も高木先生の訳で是非拝読してみたかったです。

 さらに、この邦訳版が素晴らしいのは、高木先生が作品のコツをちょいちょい加筆されていることもさることながら、作品の冒頭でその現象を一行で表現している点です。つまり「観客からこのマジックがどう見えるのか?」が一瞬にして理解できる訳です。
 マジックとは、今の自分の行動を客観的にコントロールしながら、虚構の現実を観客に示すことだと私は思っています。これが実は非常に難しい。自分から見たら当たり前の操作をしているだけなのですが、観客からは非論理的な現実が見えている訳です。これは自分が今何をしているのか、そして今何が起こっているのか、自分自身の行動を客観視できなければ、観客側から見えていることは中々理解できません。
 でも、最初に短文で観客が観ているはずの「虚構の現実」を知ることが出来たなら、これは演じ手にとってはかなり有益です。

 ダイ・ヴァーノン氏に影響を与えた人物の1人であり、カードマジックの名手と言われたドクター・ジェイムス・W・エリオット(1874~1920年)氏が語ったように、すべての良い現象というものは、短い言葉で言い表すことができます。
 19世紀から20世紀の古典を読んでいますと、その当時行われていたマジックは、現象的には大変シンプルですし、使っている技法も結構大雑把だったりします。しかし、最近のマジックにはない大らかさやダイナミックな不思議さがあるように感じます。 

 最近のマジックを観ていますと、どうも複雑すぎて「授業についていけない」時があります。最近のヴィデオ・ゲームと状況がかなり似ているのです。ゲーム画面の映像やゲーム機の機能や性能ばかりが高度になって、ゲーム本来の面白さが非常に薄くなってしまったように思うのです。
(私の好きなテレビ番組に『ゲームセンターCX』という番組があります。これはお笑いコンビ“よゐこ”有野晋哉さんが、ファミリーコンピューターなどの昔懐かしいゲームを攻略していくのがメインのバラエティ番組です。もちろん登場するゲームは。ファミコンやスーパーファミコンのモノが多いので、ゲームの画面や音源も凄くプリミティヴです。今のゲームの基本性能からすると、天と地ほどの差があります。しかし、ゲームそのものがシンプルだからこそ、手に汗握る興奮がガツンと画面から伝わってきます)

 この本を読み返す度に、シンプルな現象の力強さを改めて感じさせてもらえます。そう、奇しくもダイ・バーノン氏も「シンプルなアイデアこそが、人々を本当に驚かすのだ」と語ったように。

 …最近の流れについていけないのは、ただ単に、私が歳をとってしまっただけなのかもしれませんね(泣)

(→Part 2につづきます) 

追記:話は代わりますが、ドクター・エリオット氏にも生卵を使った不思議なカード当ての手順が1つあります。これも面白い話なのですが、別の機会にということで。
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Author:yuki_the_bookworm (a.k.a "べたねば")
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