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ライジング・カードとわたくし(Part 2)

(→Part1からの続きです)

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 かなり以前、ニューヨークに在住されているアマチュア・マジシャンのご自宅へ招待していただいたときのこと。場所はマンハッタンでも超高級なマンションの1室です。

 その方はマジックに非常に詳しい方であり、マジックもされるのですが、どちらかと言うと見るほうが好きであまりマジックを演じない、でも、1つだけ凄く不思議なマジックを演じられるという話を事前に聞いていました。



 大変広い素敵なリビングに通していただきますと、その一角にはちょっとしたステージまであって、マジシャンが集まるとそこでマジックショウをするんだ、とのこと。

 お茶を飲みながらいろいろお話しを伺っている内に、私が「凄く不思議なマジックを演じられると伺ったのですが、できれば見せていただけませんか?」と恐る恐る聞いてみました。すると、その方は快諾して、私が持っていたデックを取り上げました。

 まず、私を含めた3名の観客に1枚ずつカードを選ばせ、覚えるように言いました。それをデックに戻して、彼はステージに向います。
 ステージの上に立ったその方は、これはyukiから借りたデックであり、3名の観客に自由にカードを選んでもらったことを確認しました。それを1枚ずつ魔法を使って見つけてみようと言うのです。

 素敵なピアノコンチェルトが薄く室内に流れはじめました。まず、その方は空の右手を空中へ差しだしました。すると、その指先に1枚のカードが突然出現しました。それは、1人の観客が選んだカードでした。
 そのカードを左手に持っていたデックの中に戻します。デックの表が観客に向くように立てて持ちます。すると、1枚のカードが何もしていないのにデックの中程からするするとひとりでにせり上がってくるではありませんか! これが2人目の観客のカードでした。
 このカードをデックに戻します。そして、同じようにデックを立てて持っていますと、3枚目のカードがデックから同じようにひとりでにせり上がってきます。が、次の瞬間このカードがデックから外れ、宙に浮いたのです! そして、デックの上で待ち受けていた右手の中に飛んでいきました。

 この現象を見て引っ繰り返りました。凄く不思議なのです! 勿論、その直後にデックを返してもらいましたが、デックには何の仕掛けもありません。すると、不思議がっている私を見ながらニヤニヤしているその方は私をリビングの一角にあるステージに誘いましたが、そこに何の仕掛けも見当たりません。まったく仕掛けが分からなかったのです! 一つ加えると、カードをせり上げるとき、それぞれ彼は立っている場所が違っていました。つまり、ステージ上のある地点に立っていないと出来ないマジックではありません。
 目の前、ほんの数メートル先で起こった奇跡に茫然としている私に、その方は「凄くクラシックな方法なんだけど、好きでね。もうかなり長い間演じているよ」とおっしゃいました。

 …ということは、発表されている古典的な作品なんだな! よし、ヒントをゲットだぜ!



 そして、その時逗留させて頂いていた、私の先生、ジェイミーの家の書架にあった古典的な著作を読みあさりました。すると名著『Greater Magic』(1938年)の中に1つヒントとなる作品がありました。伝説のステージマジシャン、ハワード・サーストン氏の方法です。1つしか挿絵がない、たった1頁半の解説なのですが、その現象を読むと、どうやらその方が演じていた現象とまったく同じなのです。挿絵は1つしかありませんし、方法を読んでも今の時代では荒唐無稽な印象を受けますので、普通ならその作品が読み飛ばされてもまったくおかしくありません。



 後日、その方にお逢いしたとき、その件について質問してみました。すると、その方は「良く分かったね!」と驚いて、もう一度ご自宅にお招きいただきました。

 その方は、この不思議なライジング・カードだけを演じるために、リビングルームに大掛かりな仕掛けを作ってしまったのです! 勿論、仕掛けがあってもそれは大変シンプルですし、このマジックを演じるための技量がなければなりません。その方はマジックを演じないとおっしゃるものの、素晴らしい技量の持ち主であり、しかも、ご自分で考えた方法は、原案よりも考え抜かれた方法になっていました(原案では秘密の助手を使いますが、その方の方法では1人で演技が可能なのでした)。 



 どうしてこんなことを考えられたか?と伺うと、昔ニューヨークに住まわれていた天才マジシャン、アル・ベーカー氏の話を教えて下さいました。氏が考案した名作に「ホーンテッド・デック」という作品があります。

 これは、観客に1組のデックからカードを選んでもらい、覚えてサインをしてからデックに返してもらいます。このデックをテーブルや手の平、床の上に置き、オマジナイをかけると、デックの上半分がひとりでにスルスルと動き出します。そして、観客の覚えたカードだけがデックから突き出た状態になり、そうなったらデックの上半分は再びひとりでにもとの位置に戻ってしまうのです。大変不思議なマジックです。このマジック、氏のマンションを訪れたマジシャンには必ず見せるお気に入りの1つだったそうです。
 勿論、これは原案を普通に解説通りに演じても、大変不思議なマジックです。しかし、ベーカー氏の演技では氏が何かをしたような形跡が一切なく、それにより氏の名声は一層高まりました。

 その方法が素晴らしい。ベーカー氏が住んでいたマンションのリビングの隣はキッチンになっていました。ベーカー氏はリビングとキッチンの間にある壁に細工をして、キッチンからそのデックを操作できるようにしたのです!
 ベーカー氏のお宅を訪れたマジシャンとリビングでセッションをしていて、このマジックを見せる段取りが出来たとき、ベーカー氏は奥さまに「お茶を煎れてきてくれ」とお願いし、奥さまはキッチンへと向います。
 そして、キッチンでお茶を煎れながら、リビングにいるベーカー氏の合図に従って奥さまがそのデックを操作します。リビングでは、テーブルの上に置いたデックが独りでに動き出し、選ばれたカードが出現してマジシャンたちがビックリしている間に、奥さまはキッチンでその後処理も行ない、頃合いを見てお茶をもってリビングへ登場し、何食わぬ顔でお茶を提供したのでした。

※注:ホーンテッド・デックの考案者については、同じニューヨーク在住の天才クリエイターであり、アメリカの生保大手Blue Cross社の副社長だったポール・カリー氏との確執の話があるのですが、ここでは割愛することにします。



 その話がずっと頭を離れずに、いつか自宅を購入したら、1つだけで良いから、本当に不思議なマジックを演じるための仕掛けを部屋に施したいと思っていらっしゃって、サーストンのショウで演じられていたこの作品を演じるための仕掛けを作り上げたのだそうです。しかし、その仕掛けを作るためにかかった費用は、聞いてビックリしてしまいました。ちょっとした部屋のリフォームをする位の値段だったのです!



 マジシャンを騙すための情熱とうまく騙せた時の快感というものは、どうやらお金には替えられないもののようです。自分もマイホームを建てる時には、絶対何か1つ、こうした仕掛けを仕込んでやろうと密かに企んでいます。
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yuki_the_bookworm  (a.k.a "べたねば")

Author:yuki_the_bookworm (a.k.a "べたねば")
何げない日常の中の、本と料理とマジック。

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