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Genii 75th Birthday Bash Day 2 - 特別編:ある秘密の断片 (その2)

(→Day 2 - 特別編:ある秘密の断片(その1)からの続きです)

 歴史ある奇術専門誌『Genii』の創刊75周年を記念して開催されたGenii 75th Birthday Bashというマジックの大会に参加するためにフロリダはオーランドに滞在しておりました。

 ドキドキしながら、今回この大会のゲストだったクロースアップ・マジシャンの前田知洋さんのショウとレクチャーのお手伝いをさせていただきました。

 ちょっとしたハプニングがありながらも見事に対処され、前田さんのショウは大成功!会場からは大きな拍手が巻き起こりました。



 ショウがはねて、すぐに前田さんの元へ走りました。

「前田さん、お世辞じゃなくて本当に凄かったです。同じ日本人としてこれ程嬉しいことはありません」
「今回のショウが上手く行ったのも、Yukiさんのおかげです。ありがとうございます」
「何も手伝っていないですよ! 一つ質問があるんですが、どうして打ち合わせを最小限にされたんですか?」
「あぁ、カメラワークのことですね。こういうことってライブではよくあるんです」
「へ!?」
「多分、Yukiさんはどうしてあんなに打ち合わせが簡単だったか不思議だったんですよね?」
「…当たりです」
「どこのスタッフさんも頑張ってくださるのですが、人間って完璧じゃないじゃないですか」
「確かに」
「なので、申し訳ないですが、最初からすべてを期待していないんです」
「なるほど…」
「いろいろな現場がありますから、すべてが完璧な状態ではないですよ。まず、自分たちが完璧な状態にしておく。その上で、現場で期待以上の仕事をしていただいたら本当に感謝ですし、ダメでもともとですから何にも気になりません。あとは自分には経験がありますから、なんとかなるものですよ」

 前田さんは常に先を見越した行動をされます。どういうことが自分に求められて、それ以上の成果を出すにはどうすれば良いか、そこを目指して一歩先の行動をされます。しかし、それだけですべての問題を解決できるわけではありません。 
 経験。スタイルはマネできるかもしれませんが、経験と知識だけは誰にも盗むことは出来ないのです。自分にとっては凄く深く、そして重い言葉でした。

「自分の演技を最高な状態にするには、普段通りにしているのが一番ですよね? 私は自分でどこででもその環境を作るようにしているだけです。自宅でリラックスしているような、ね。もしかすると、これは大切な秘密の1つかもしれないですけどね!」

 やっと、前田さんの顔から笑みがこぼれました。

「Yukiさん、ちょっとこの道具を持っていてもらえますか?」
「もちろん!」

 私に道具を渡すと、すぐにステージ裏へ。そこに居たすべてのステージクルーに感謝とねぎらいの言葉をかけていらっしゃっいました。打ち合わせ通りに仕事が出来なかったあのカメラマンさんにも、です。

「打ち合わせ通りでは無かったかもしれませんが、彼も頑張って仕事をしようとしてくれたんですから!」

 そこからは、様々な出演者や大会の参加者が前田さんの元に集まり、口々に前田さんに声をかけ、サインや写真撮影をお願いしていました。しばらくの間、その人の輪は消えませんでした。



 ショウの評判が瞬く間に広がり、前田さんが登場されるレクチャーへの期待も徐々に高まっていきました。それはそのはず。こんなに凄いショウを観たならば、どんなマジックを紹介してくれるのか?誰もが興味を持つはずです。

 この日、ショウの片づけをしながらレクチャーの話を前田さんとしていました。



tomonote.jpg
これがレクチャーノート!

「前田さん、ショウはお疲れ様でした! レクチャーの手伝いは任せてください! 販売するノートとかはありますか?」
「ありがとうございます。えぇ、Richardに言われて一応持って来たんですが、Yukiさんにお見せするのは恥ずかしいなぁ」

と言いながら、大きな紙包みをスーツケースから取り出されました。

「あ、これ凄い! もう売り切れになった前田さん特集号のGenii誌じゃないですか!」
「はい、そうなんですけどね。この号に掲載されているマジックの中からお気に入りを抜き出しました」
「これ、編集とか大変だったんじゃないですか!?」
「すべて、私のマネージャーがやってくれましたから」
「で、これ、いくらで販売予定ですか?」
「そうなんですよ、そこが問題なんです。Yukiさんならいくらで買います?」
「15ドルですかね? だって、これもう売り切れの号ですし」
「え!? そんなに戴いて良いんですか?? マネージャーと話した時は『この号はiGenii(注:Genii誌を購読すると、75年分のバックナンバーをインターネット上で読むことが出来ます。そのシステムのこと)のアーカイヴスでも見ることが出来る訳だし、こんな急ごしらえでカラーコピーのノート、ノートなんて言えないから1ドルで充分!』ということになりました。5ドル以上で頒布してしまったなんてことになったら、日本に帰った瞬間にマネージャーから怒られてしまいます」
「え!? それはいくらなんでも安すぎます! お釣りの問題もありますからお釣りが出ないように5ドルにしましょう、絶対です!!」

 こうして前田さんが日本から持ってこられた48部のレクチャーノートは、1冊5ドルで販売することになりました。



comingupnext.jpg

さあ、Day 3のレクチャーの前になりました。こうやって、会場の大きなスクリーンには“Coming up Next...”と次のイベントの案内が流されます。これ、凄くカッコ良かったです。

meetingwithmoo.jpglectureprep.jpg

 こうして、Richardと打ち合わせたり、カメラのアングルや位置を自ら調整されたり。あと、マイクの音声を注意深く調整されていました。

withbrad.jpg

 かといって、凄い緊張感が張り詰めるといった風でもなく、途中で共通の友人、芸術家で美術館の司書でもあるナイスガイBrad J. Aldridgeさんと笑いあったり!

 私はレクチャーブースでレクチャーノート販売をする準備。早く店開きしてしまうと、レクチャーが終わった後までノートが残らないので、準備はこっそり。



 会場には750名に近い参加者が集まっていました。もう、参加者の期待は最高潮です。今か、今か!という期待が舞台の横にも伝わってきます。気の早い参加者が何人もブースに立ち寄り、「ねぇ、もちろんTomoはレクチャーノートを持ってきているんだよね?」と私に質問をしてきました。

 レクチャーの内容は、紙に書いたスプーンを曲げる「The 2D Spoon」、仕掛けのない折りたたまれた紙袋の中から、これまた仕掛けのない大きな2リットルのコーラのボトルを取り出す「Large from little」、靴下を使った大変面白い予言のマジック「Ten Socks in the bag」(このマジック、海外のマジシャンの多くがレパートリーにされているようで、前田さんが何足もの靴下が入った透明のバッグを取り出した瞬間、客席から大きな拍手が起こりました。この反応には前田さんもビックリ!)、そしてショウで演じられた「Pieces of Future」と「Pack in the box」を詳細に流暢な英語で解説されていきました。

 その風変わりな現象に観客は驚き、そして、その賢い解決法に客席からはため息が漏れ、惜しみない拍手が沸き起こりました。
 参加者の一人は後で私にこう話しました。「Tomoのマジック、長い間大好きで自分なりに演じていたけれど、やはり本人の演技を見ないとその考え方の本質が分からないね。今日は本当にいい勉強になったよ」

 一番最初に演技と解説を行った「Large from Little」では、解説の途中で「皆さん、私の聞きとりづらい英語で申し訳ありません。私が言っていること、ご理解いただいていますか?」と確認をされました。客席からは「まったく問題ないよ!」という掛け声と共に大きな拍手が。あぁ、皆さんちゃんと集中してレクチャーを受けているんだなぁと嬉しくなりました。
 そして、広げた空っぽの紙袋の中からアメリカ製のコーラのボトルを取り出し、袋の中にバスン!と落として、そのまま目の前に居た観客に手渡したとき、私の耳に聞こえるくらいの「オゥ…」という驚きの声が客席から漏れました。
 やはり見慣れたボトルが空っぽの紙袋の中から突然現れて、紙袋とボトルに仕掛けがないことが観客に大きなインパクトを与えていたのでした。

 前田さんのレクチャーで興味深かった点は、これほど大勢の参加者を前にすると普通は「押せ押せ」の一方的な講義になってしまいがちなのですが、観客とコミュニケーションを取りながら、インタラクティブにレクチャーが進んでいくのです。途中「日本人は『つまらないもの(Useless things)』を差し上げる文化があります!」というフレーズを繰り返しジョークとして使われ、参加者の皆さんはこの『ランニング・ギャグ』を凄く楽しまれていました。



 私もレクチャーを横から楽しんでいたら、レクチャーに参加されていたスタッフのお1人、歴史家のDustin Stinettさんがレクチャーブースへとこっそり近づいていらっしゃいました。

「Dustinさん、レクチャー面白い??」
「もう、最高だね!…Yuki、ちょっと良いかい?」
「もちろん!どうしました??」
「…レクチャーノートを見せてくれないか?」
「おやすいご用。どうぞどうぞ!」

 Dustinさんにノートを1冊渡すと、彼はこのノートを見ながらこう言いました。

「Yuki、いまノートを1冊買わせてもらっても良いかい?」
「ナイショだけど、もちろん良いですよ!」
「ありがとう!…ちなみに、これ1冊いくらだい?」
「いくらだと思う?」
「うーん…やっぱり15ドルじゃないの?」
「なんと5ドル」
「えっ、何だって!? 正気の沙汰じゃないぞ、それ! この号、もう売り切れで手に入らないんだぞ!」
「だって、5ドル以上で販売したら、前田さんのマネージャーさんに前田さんが怒られちゃうからね。最初は1ドルで充分って言ってらっしゃったもん」
「Yuki、分かった……3冊くれ!」

 この時、ちょっと頭の中に閃いたことがあって、わざと1冊取り置きをしました。これが後で功を奏することになります。


 
 レクチャーは大喝采のなか終了しました。その瞬間、参加者の波が私のいるブースへ向かって押し寄せました。次々5ドル札を私に差し出してきます。

「押さないで! まずはお釣りのない方から販売させて頂きます!!」

 お釣りが出来た所から、高額紙幣しか持っていないお客さまにもノートを販売します。次から次へひっきりなしに参加者がやってきて収拾がつきません。販売開始から5分も経たないうちにノートは完売してしまいました。

 販売終了してからも人がひっきりなしにやってきます。
「もう販売終了なんて、一体どういうことなのっ!!」参加者の女性に怒られながらも、
「日本から持ってこれるだけの分量でしたし、Genii誌の読者の皆さんならiGeniiのアーカイヴスに行けば、今日Tomoさんがレクチャーした内容のほとんどを知ることができますよ! あとRichardが出版した『Five Times Time : JAPAN』(Kaufman and Greenberg刊、1992年)という本の中に風船を使ったカード当ては掲載されていますから! ただ、風船の復活現象だけはここで初めて解説されましたから、これだけ覚えて帰ってください!」
「え、何よそれ!? iGeniiなんて聞いたことがないわっ!!」
「Geniiのウェブサイトに飛んで下さい。そこに詳しく解説されていますからねー!」

と叫びながら、押し寄せてくる参加者の皆さんからの質問を捌いていきました。どの作品がGenii誌のどの号に載っているかメモに書いてあげたり、口頭で教えたり、レクチャーノートが早く無くなってしまったことへのお詫びをしたり。
 結局は30分ほどかかって閉店ガラガラ~。正に戦場でした。



afterlecture_20121108181622.jpg
ずっとサイン会

 ブースを片付け、会場を出ると、会場の外で前田さんはずっとレクチャーの参加者のみなさんにサインをされていました。その皆さんに感謝の言葉と「いかがでしたか?」と気さくに声をかけられ、会話を楽しんでいるようでした。
 解説を聴き逃した方には、ちゃんと目の前で実演したり、レクチャーで教えなかった細かい要点を教えてあげたり、アフターケアもバッチリ。参加された皆さんは大満足のご様子でした。



 前田さんがサインをされているテーブルに、関西から参加されたご婦人がいらっしゃいました。

 このご婦人は前田さんの熱心なファンで「いやぁ、もうね、どうしても前田さんにお逢いしたかったんですわぁ~」とバリバリの大阪弁で熱く語られていたのを覚えていました。
 その様子が凄くチャーミングで、前田さんも印象に残ったよう。大会期間中にこのご婦人を見かけるたびに「楽しんでいらっしゃいますか?」と声をかけ、ご婦人は熱心に前田さんに自分は如何に楽しんでいるか?を語っていらっしゃいました。

 このご婦人はもちろん前田さんのレクチャーに参加され、サインをお願いしながら、如何に前田さんのレクチャーが楽しかったかを語られました。すると、参加者の何人かが前田さんのレクチャーノートを持っていることに気づかれました。

「あ、これは何ですか?」
「これはレクチャーノートですよ。さっきYukiさんが販売されていたんです。レクチャーの最後にご説明しましたよ」
「えっ!? わちゃー、それは知りませんでしたわぁ。私、英語がまったく分からないので、そんなことがあったなんて…」と、凄くガッカリされていました。

「前田さん、前田さん」こっそり前田さんに耳打ちをしました。
「どうしました、Yukiさん」
「万が一のことを思って、ノートを1部取り置きしておいたんです」
「Yukiさん、ナイス!」
…良かった、判断は間違っていなかったようです。

 そのご婦人に「5ドルなのですが、1部取り置いてあったので、よろしければお分けしますよ!」と伝えると、ご婦人は満面の笑みで「ほんまですか??うわぁ、凄く嬉しいわぁ!!」と仰いました。

 実は先ほどレクチャーブースで1部取り置いたのは、このご婦人のことを思い出したからだったのです。確か英語がまったく分からないと仰っていたよな、もしかするとノートの販売とかアナウンスが伝わらないかも…と思ったからでした。



 この大会に参加して一つ非常に不思議だったのは、日本人の参加者でショウやレクチャーの後でその感想を前田さんに声をかけに来られたのは、このご婦人お1人だったことです。

 日本人以外の参加者の皆さんは前田さんに気さくに、しかし、ちゃんと礼を尽くして、いろいろな話をされていました。それに対して前田さんも礼を尽くして大変気さくに答えていらっしゃいました。

 なんだろう、この差は。同じ国からの出演者なのに、凄くよそよそしいなぁ…と思っていました。
 
 私が帰国して前田さんとSkypeをさせて戴いたとき、こんなお話しが出ました。

「Yukiさん、大会が終わったらね、Facebookに突然友達申請があったり、『大会ではお世話になりました』ってメールが届いたりしてるんですよ……それならば、どうして現地で私に声をかけないんでしょうね? そこから新しい関係が生まれるかもしれなかったのに」

 実は、私にも似たようなメールやメッセージが届いていました。
 非常に奇妙な気持ちになりました。

 何故、私が先ほどの関西からのご婦人にレクチャーノートを取り置いたかと言えば、ご婦人が私や前田さんにコミュニケートをされて印象に深く残っていたからです。それならば、と一肌脱ぐ気持ちにもなるってものです。それが日本では「面倒くさいから」と見過ごされ、蔑まれ、本当に見かけなくなってしまった義理人情なんだと思います。

 今回のこの大会では、ありがたいことに海外の新しい友人ができました。古い畏友たちとも再び繋がりができたりもしました。
 もちろん先生Jamyのおかげでもありますが、勇気を出して“Hello!”と私から声をかけ、「礼を尽くしながら」自分の事を相手に伝えた所から新しい友情が生まれました。これこそがコミュニケーションなのではないか?と私は思います。義理人情の大切さは、世界共通だと思います。

 Day 4でこの思いが確信に変わりました。



 単に仕事を完了させるだけでなく、その仕事を完璧にこなし、さらに、国内外のクライアントや参加者の期待以上の大きな成果を出すための、本物のプロの秘密を知ってしまいました。社会的に広く認知され、本当に凄い実績を積み重ねた、第一線で活躍するプロの、です。しかも、今回チラリと見せて戴いた秘密はほんの氷山の一角に過ぎないことも。

 ピン!と背筋が伸びる思いでした。

 前田さんと一緒の時間を過ごして、名画「バベットの晩餐会」(ガブリエル・アクセル監督、1987年)に登場する女性バベットを思い出しました。
 料理という芸術で人をもてなし、尽くし、幸せをもたらす。その技術を一切村人に語らず、ただ、与えられた環境の中でベストを尽くし、淡々と最高の料理を提供する。
 そのバベットに関心を向けないふりをし続ける固定概念に縛られた村人たちも、最高の料理を楽しむうちに笑顔に溢れ、幸せに包まれていく。
 バベットの凛とした佇まい、その立ち姿の美しいことと言ったら。是非、この映画をご覧いただきたいです。

 前田さんは日本においては西洋的なセンスを取り上げられがちなのですが、実は非常に日本的な侍なのです。その志は、まさに侍のそれとまったく変わらない。こうしたすべての事象に対する“Attitude”が、前田さんを唯一無二の存在にしているんだと。  



 私がどれだけ言葉を尽くしても、説得力がないかもしれません。では、海外の参加者と大会サイドの皆さんがどう感じられたか? 何故、数多い日本のマジシャンの中から前田さんが選ばれ、そしてここまで愛されたのか? これがすべてだと思います。 最後にお読みください。

"Speaking of Tomo, it was a thrill to see him. I met him about twelve years ago when I lived in Japan and he was so kind and gracious then. It was fantastic to find a renewed friendship with him. We talked at length about his show and lecture and, as always with my Japanese friends, I felt warmly welcomed by his friends, including the lovely Yumi. Tomo Maeda, to me, is one of the coolest guys on the planet. He is smart, gentle in his demeanor but strong in his opinions and he has a slyly disarming sense of humor. Check out Tomo via the Genii archives."
-Doug Thornton

"-One of my highlights:Tomo Maedo's restored balloon"
-Nathan Coe Marsh

"The Asian new breed (Yumi, Tomo Maedo, Lukas)."
-Jonathan Pendragon
(注:あのペンドラゴンズのジョナサンさんです)

"Tomo Maeda was mystifying with a lighter side. Performs a traditional piece, makes a ring disappear...and he exclaims that "A good Japanese story always ends with a tear" He was so forthcoming to all convention goers, a wonderful man."
-Magick Baley

"Tomo MAEDA is the one of most talked-about magician."
-Richard Kaufman/ chief editor of "the GENII MAGAZINE

"He was a real highlight of the GENII Bash."
-Matthew Field/ the former chief editor of the Magic Circular"/Author

(Day 3に続く)

Genii 75th Birthday Bash Day 2 - 特別編:ある秘密の断片(その1) 

(→Day 2 Part3からの続きです)

 歴史ある奇術専門誌『Genii』の創刊75周年を記念して開催されたGenii 75th Birthday Bashというマジックの大会に参加するためにフロリダはオーランドに滞在しておりました。

 ドキドキしながら、今回この大会のゲストだったクロースアップ・マジシャンの前田知洋さんのショウとレクチャーのお手伝いをさせていただきました。

 今回と次回は特別編。普段はあまり見ることが出来ないショウとレクチャーの裏側について、こっそりお伝えしたいと思います。



 話しは大会Day 2の朝に戻ります。

 今朝までの3日間をオーランドで前田さんと過ごしていて感じたのは、すごくのんびり、ゆったり過ごされているなぁ、ということでした。

 朝はゆっくり歯磨きをして、ゆったりと朝食をとって、コーヒーを持って外に出てお日さまにあたりながら私相手にいろいろなトピックスの会話をしてお互い笑いあったり、ちょっとだけお散歩をしたり。本当に悠々自適、といった感じ。

 そしてこの日の朝、ついにずっと気になっていたことを前田さんに伺いました。

「前田さん、いつも緊張されないんですか??」
「しない訳ないじゃないですか。それに日本からわざわざ高い航空運賃を払って僕を呼んでもらったので、他の出演者の皆さんよりも良い仕事をしないといけないと思っているんです…」
「…確かに」
「ということは、自分自身の準備を万全にしないといけない。でも、人前に立つというこ とは自然にアドレナリンが分泌されて、興奮と緊張状態になるのは自然なことなんですよね」
「ということは、人前に立つときに平常心ではいられないってことなんですか??」
「その通り! つまり、ストレスや緊張から抜け出すには、興奮と緊張を呼ぶアドレナリンの分泌をなくせば良いんです」
「でも、そんな事って可能なんですか??」
「出来ますよ。普段よりゆっくり行動するんです。Yukiさん、結構今緊張してるでしょう? 大丈夫、気にしないでくださいね。今日は特に、私と一緒にいつもよりゆっくり過ごしてみて下さい。それと、緊張は伝わりますからね!」

 …あ、見抜かれてる! そうだ、私の緊張を前田さんに伝えてしまう訳にはいきません。でも、このとき気づいたのでした。
 確かに前田さんとご一緒していると自然にゆっくり過ごすことになって、凄くリラックス出来るんですね。この後、私も極力ゆっくり過ごすことで、段々不安と緊張から「ショウが楽しみ!」という風に気持ちが自然に変わっていきました。
 


 前田さんは凄く余裕を持って準備をされます。いつから準備をされていたか?というと、日本を出発した瞬間からすべての準備を開始されていたのです!

 まず、時差を調整するためにわざと機内食を食べなかったり、周囲が明るい状況を作らないようにしたり。私のように到着時間を調べて、そこから逆算して一晩中起きていて飛行機の中で寝る(!)なんていう乱暴な調整法ではありません。
 そして、毎朝のお散歩は日の光を浴びるため。身体にきちんと「朝だよ!」と教え込むためだったのです。

 Day -2でフードコートの食事をされたのも、現地の食べ物を食べてオーランドの空気に馴染むため。

 そして、Day -1。

 大会の雰囲気と英語に慣れるために、わざわざ私と一緒におみやげ鞄におみやげを詰めていたのです。そうしたら、大会のスタッフの皆さんの顔と名前を自然と覚えることができて、なおかつ自然に皆さんとコミュニケーションをとることができます。そして、徐々に大会内部の皆さんと「仲間」になっていらっしゃいました。

 さらに、大会期間中は前田さんに声をかけてくる参加者の皆さんと大変フレンドリーに会話をして、サインや写真撮影などに応じて、大会の参加者の皆さんとコミュニケーションをとっていました。以前のエントリーでも書かせて頂いたのですが、前田さんと直に逢った方は確実に前田さんの虜になってしまいます。それは、海外でもまったく同じでした。

 こうして大会スタッフの皆さんの様子や大会参加者の皆さんの様子を身体で感じとりながら、ご自分から率先して大会の場に馴染むようにされていたのが非常に印象的だったのです。多分、この大会でのご自分の立ち位置を確認されていらっしゃったのかもしれません。
 しかも、こういう事を「自然に」行っていたのです。計算して出来るものではありませんし、そうだったとしたら、逢った人たちはすぐにそう気づくでしょう。

 場の空気に馴染むといえば、ショウやレクチャーで使う小道具の一部を現地調達されたことも見逃せません。道具を現地調達することで観ている参加者の皆さんがその道具は普通で仕掛けがないことも分かりますし、親近感も湧きます。



 そして、Day 1の夕方。

「Yukiさん、今日リハーサルをしたいので付き合って頂けませんか?」
「もちろんですとも!」
「Yukiさんはいつも褒めすぎるので、普通に反応してくださいね。そして、率直な意見を聞かせて下さい」
「了解です!」

 なんと、前田さんの演技を私1人で拝見しました。何と言う贅沢な時間なんでしょう!

 私の反応を見ながら、前田さんは演技のタイミングと演技のセリフを絶妙に微調整します。その感覚の繊細さときたら…。リハーサルの秘密をすべて見せて戴きました。これらの秘密は、私がお墓まで持っていきます。

 言いにくい単語や調整したセリフは、この時から折に触れて前田さんは鼻歌を歌うみたいに呟くようになります。あぁ、こうして言葉に慣れていかれるんだなぁ…。

 前田さんは私にいくつかの質問をされ、私もそれらの質問に真剣に向き合いました。すべては大会の参加者の皆さんが楽しんで頂けるように、という一点に集中されていました。

 そして、すべての道具はある程度準備してあり、この日に確認して完璧にセット完了。これも、すべて心に余裕を持つためだそう。



 Day 2のランチが終わった後に時間を進めましょう。

 クロースアップ・ショウのリハーサルが始まる13時が近づきました。前田さんの着替えも終わり、道具を持って会場へ。打ち合わせが始まります。

 その前にされていたGuy Hollingworthさん(イギリスの法律家でプロマジシャン。大変洗練されたカードマジックを演じることで有名です)のレクチャーの終演時間が延びてしまい、リハーサル開始が実際には30分近く押してスタート。

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 ステージ監督さんがやってきて、説明を始めます。「やあ、皆さん。俺はSteven。時間が無いから手短に。皆さんの素晴らしい演技を観客にベストの状態で伝えるように俺たちもベストを尽くすよ。皆さんの要望を聞いていくので、何でも言ってくれ。出来る限り要望に沿えるようにするぜ。では、最初にカメラ位置、および照明と音響の説明を…」

 出演者の皆さんが、1つ1つ要望を伝えます。しかし、前田さんの要望は本当に最小限。

「え!? 前田さん、それだけで良いんですか?」
「えぇ、大丈夫。これだけ伝えれば何の問題もないはずです」

 もっと要望があるのかなぁ?と思っていたので非常に不思議だったのですが、その理由は後で分かります。

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リハーサルのピン!と張った空気

 前田さんは舞台のスタッフさんたちに要望を伝えると言うよりも、舞台中を歩かれて、舞台の感じやカメラ位置、会場に映される大きなスクリーンにどのようにテーブルや小道具が映されるか?ということに注目されていたように思いました。

 そして、出演者の皆さんがそれぞれ準備と打ち合わせを完了させて、時間通りクロースアップ・ショウが開幕しました。



 さあ、Paul Wilsonさんのショウが終わって、いよいよ前田さんの登場です。

 会場を見渡していたら、あることに気づきました。そっと、大会のスタッフである皆さんが場内に入ってこられたのです。本来ならいろいろな仕事があるはずなのに、その手を止めて前田さんのショウを見に来られたのです。もうマジックのことを本当に良く知っている皆さんが、わざわざ来られた訳です。
 
 司会のJon Armstrongさんの紹介が始まりました。これが大変洒落たものでした。

皆さん、次の出演者をご紹介しましょう。もちろん、大変素晴らしいマジックの考案者であることを皆さんはご存知でしょう。しかし、彼は母国においてTVスターであるだけではなく、9本のスペシャル番組に主演し、プレイヴェートなパーティーでは多くの著名人を楽しませ、先週は皇后陛下(Her majesty the Empress)にもマジックをお見せしています。そう、つまり今日は私たちも同じマジックを観ることになります! ご紹介しましょう、Tomo Maeda!


 この一瞬だけロイヤル・ファミリーの仲間入りをした参加者たちからは、笑いと万雷の拍手!!

 これを聞いた瞬間に「あぁ、これだ。このためだったんだ」と分かりました。会場全体の空気が、自然に前田さんを温かく迎える空気になっていたのです。そこからは怒涛の展開でした。



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 「皆さんこんにちは、クロースアップ・マジシャンのTomo Maedaです。今日はお招き戴き、大変光栄に思っております…」非常に流暢な英語による挨拶でショウはスタートしました。

 演目は、愛好家の方にはお馴染の風船を使った不思議なカード当て“Pieces of Future(レクチャーノートでは“...and now”という作品名になっています)”、面白いお話しに載せて進行する指輪を使ったマジック"Origami Duck"、そして、3名の観客が自由に選んだカードが空っぽのカードケースに見えない飛行をし、最後にあり得ないようなクライマックスが待ち受ける"Pack in the Box"の3作品。
 すべて、前田さんのシグネチャ・ピース(代表作)です。

 マジックを英語と日本語で演じられた経験がある方には分かって頂けると思うのですが、英語と日本語ではマジックを演じる時のタイミングがどうしても微妙にずれてしまいます。これが演者にとっても、観客にとっても、違和感に繋がります。これはお互いにとって良い事ではありません。しかし、前田さんは完璧にそれを調整されているので、違和感がまったくありませんでした。
 そしてギャグのタイミングも完璧で、「ここで笑いが来て欲しい!」という部分で客席からはドッ!と笑いが巻き起こります。

 最初に演じられた風船を使ったカード当て“Pieces of Future”では、演技中に膨らませた風船を割ってしまいます。未発表になっていますが、最近の演技ではこの割れた風船を元通り復活させる現象が入っています。これが凄かった。

 前日に私が拝見したリハーサルではこの部分「あぁ、これだと私がリラックスできません。なので…」と言いながら割れた風船を元通りに復活させ、風船を膨らませて、吹き口を自分に向けて風船の中の風を浴びてリラックスされておしまい、という流れでした。
 
 そうしたら、前田さんは突然このように変更されました。

 「昨日の夜、Peter Samelsonさんの素晴らしい演技を皆さんご覧になられましたか? あの“ジプシー・スレッド”(千切った糸が元通り復活するマジック)を拝見したら、私も演じてみたくなりました! 良くご覧ください!」と、まるでいたずらっ子がちょっと悪さをするかのようにおどけた感じで割れた風船の破片を集めて、見事に復活されたのです!

 これには会場の皆さんも、Peterさんもビックリ!! 原案を知っている方でもこの風船の復活はご覧になった事がないために非常に不思議ですし、復活を知っている方でもその演出の巧みさに感心したのです。
 「あぁ、会場が何を求めているか、もうとっくにご存知だったんだ…」演技がさらに一段階上に上がった瞬間を見てしまいました。

 ショウが終わった後、Peterさんは一目散に前田さんの元に訪れました。

「Tomo、本当にありがとう! 凄く光栄だよ!!」
「私はPeterさんの大ファンですし、あなたが考えられた本当に素晴らしいセリフ『では、このカードは全宇宙でたったのこれ1枚しかない、という事になります』からボクのセリフが生まれたので、大変感謝しています。私の方こそお礼を言いたかったのです」

 Peterさんは感極まった様子でした……こんなこと、なかなか言えません。

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アヒルが折り上がった時、会場からは驚きの声が…

 続いて"Origami Duck"。大会スタッフのお1人、Beckyさんという女性をお手伝いとして、優雅に舞台へといざなって演技が始まりました。その楽しいストーリーに会場の皆さんはニヤニヤ。
 話の途中で、Beckyさんから借りた指輪が突然消えてしまいます。「…えぇ、日本の良い昔話の最後には、涙がつきものなんです」と前田さんが仰った瞬間、客席からは爆笑と拍手が! Beckyさんもこれには苦笑するしかありません。

 このセリフのインパクトは相当強かったみたいで、演技の後で何人かの参加者の方から「Yuki、日本のおとぎ話には本当に涙がつきものなの!?」と質問を受けました。

 もちろん、指輪は不可能な場所から出現するのですが、その終わり方も大変洒落ていて、Beckyさんがこの演技で一番大切な方だとすべての観客に分かるようになっているため、最後にすべての観客はBeckyさんに惜しみない拍手をされました。

 演技の後、Beckyさんはこう語っていらっしゃいました。
「私、本当はマジックって見慣れ過ぎちゃってあんまり好きじゃないんだけど、Tomoのマジックならお手伝いしても良いわって思ったの! 本当に凄かったわ!!」

 そして、最後の3人の観客のカードがカードケースへと飛行するマジック“Pack in the box”。実はここでアクシデントが起こります。

 2人目の観客のカードがカードケースから出てきた時、ある秘密の動作が必要になります。しかし、カメラマンは打ち合わせ通りの撮影をせず、見られては拙い部分をアップにして撮影しています。それは、会場の大きなスクリーンにもその部分がしっかり映っています。客席で「あ、これは拙い!」と私は心の中で叫びました。

 演者のための確認用モニターをちらりと見た前田さんも、それに気づいたようです。拙いと気づいた瞬間、前田さんは手に持った2人目のカードを前にスッと差しだし、指先でこのカードを弾いて「普通のカードですよ」というジェスチャーをしたのです。
 それは大変自然な動作で、カメラマンもそのカードに注目して、カメラを一瞬そのカードに向けました。そして、客席はみな、見られては拙い場所から視線を外したのです。その刹那、前田さんはその秘密の動作を完了させました。もちろん、誰もその事実に気づいていません。

 これが本物のミスディレクションであり、プロフェッショナルの対処法なんだ…これだ、これなんだ。
 私は1人、客席で大切なレッスンを受けました。

 そして、このマジックのクライマックス。手に持っていた1組のカードが一瞬にして3人目の観客のカードへと変化し、手に持っていたはずの1組のカードが空だったはずのカードケースから出てきた瞬間、「…わぉ」という息を呑む声と共に客席からは割れんばかりの拍手が起こりました。



 実は、この前田さんの様子に気が付いた人物がもう一人いました。先生Jamyでした。

 この大会が終わってからワシントン、NYCを訪れた後、先生Jamyが住むサンディエゴへ行ったときのこと。

「Jpa(注:先生Jamyは2人の男の子のパパさんなので、親しい友人は彼をそう呼びます)、今回の大会で心残りってあった?」
「あぁ、一つあったよ」
「なになに??」
「今回、Yukiが折角紹介してくれたのにTomo Maedaと話があまり出来なかったことだね。日本に帰ったら今回は時間がなくて申し訳なかったと、よろしく伝えてくれ。イギリスで開催されたThe Magic Circleの100周年大会に行った時、3名のマジシャンによる、各々45分のワンマンショウがあったんだ。確かTamarizと、あれ、後1人誰だっけ? もちろんこの2人も素晴らしかったんだけども、Tomoのショウは信じられない位素晴らしかった。凄くチャーミングなパーソナリティにオリジナリティ溢れる演目、演技のマナー、すべてが完璧だったんだよ」
「それは凄い! Tomoさんからそんな話聞いたことが無かったよ」
「で、今回のクロースアップ・ショウも凄かったね。Yukiは気づいたか? 最後のカードマジックでカメラが拙い場所を捉えていて、彼は凄くナチュラルにこの状況から脱出しただろう?」
「うん、僕も気づいてた」
「あれな、実は私も似た解決をした人を知ってるんだ。誰だと思う?」
「誰だろう…」
Tony Slydiniだよ(注:1901年~1991年。イタリア出身の天才マジシャン。ミスディレクションの達人として知られ、素晴らしいクロースアップ・マジックを多く考案したことでも知られます)。」

 ある夜、名人Slydiniはニューヨークのナイトクラブに出演していました。彼と親しかったJamyは舞台の最前列に招待され、演技を見ていました。

 Slydiniさんの演技で有名な「紙玉のコメディ」という演目があります。これは舞台上に上げた観客の目の前で丸めた紙ナプキンを見事に消し去るのですが、その舞台にいる観客にとっては大変不思議なのですが、客席にいる観客にはどう消しているかすべて分かるというコミカルな演技です。

 その夜舞台に上げた観客は非常に態度の悪い観客だったようで、彼がどうこの観客を誘導しようが言うことを聞かず、紙玉が消える様子をすべて見破ってしまっていました。目の前に居るJamyに「うん。観客を間違えたようだよ」とボソリと呟いたくらいだったそう。

 そして、最後の瞬間がやってきました。このマジックのクライマックスは、紙ナプキンをたっぷり重ねて作った、子供の頭くらいある大きさの紙玉を消すのです。

 この大きな紙玉を両手の間に持って観客に尋ねました。

「この紙玉が消えると思うかね?」
「今まで見てきたけど、そんな事はあり得ないね」
「そうかい…おや?」

と言うと、右手の人差指で本当にさり気なく、舞台に居る観客の胸ポケットをスッと一なでしました。その瞬間、
この観客は胸ポケットに目を向けたのです!
 この刹那、名人は大きな紙玉を処分して、この観客の目の前でその間にさも何かを持っているかのように両手を合わせました。

「さあ、私の手に息を吹きかけてくれないか?…ほら、紙玉は消えたよ」

 舞台にいた観客は椅子から転げ落ちそうになるほど驚きました。そりゃそうです、今まで目を皿のようにして名人を見ていたのに、目の前でこんなにも大きな紙玉が煙のように消え去ったのですから。場内は凄まじい拍手に包まれました。

 そして、名人はJamyをチラリと見たそうです。「ちゃんと観たかね?」と言わんばかりに。

 Jamyはこんな思い出話を教えてくれ、そして、こう〆ました。
「…正に、あのときのTomoの動作はSlydiniと同じだった。本当に感心した」



 司会のJonさんが再び舞台に登場し「Tomo Maedaでした、皆さま大きな拍手を!」と紹介すると、さらに拍手は大きくなりました。

 こうして怒涛の10分間が終了しました。



 会場中の空気をすべて自分の味方につけ、世界中から集まったマジックを見る目が肥えた800名の観客を前に、第2言語である英語をネイティヴ並みに駆使して「メイド・イン・ジャパン」である前田さん一流のオリジナリティ溢れるマジックを演じ、万雷の拍手喝さいを受ける……

 同じ日本人としてこれほど嬉しいことはありませんでした。

 ここ数年、前田さんが出演するTV番組を見てマジックを始めたという若い世代に多く出会いました。しかし、非常に残念なことに、前田さんの演じるマジックやセリフ、テクニックといったミクロの部分から、前田さんの生活様式や仕事のされ方といったマクロの部分まで、その表層をマネしているだけで、前田さんが何故この現象を選び、特定の技法を使用することを選択したのか?、何故その生活様式を好まれているのか?にまで思いを馳せることが出来ない方が多い印象を受けています。
 前田さんが演じられるマジックの多くはクラシックですから、確かに学べば似た現象を演じることは出来るでしょう。しかし、決して前田さんと同じようにその演目を演じることは出来ませんし、観客から同じくらいのセンセーショナルな反応を引き出すことは出来ませんし、それは不可能です。

 今回の前田さんのショウを見て、この事実を再確認できました。

Day 2 特別編:ある秘密の断片(その2)に続く)

Genii 75th Birthday Bash Day 2 (Part 3)

(→Day 2 Part 2からの続きです)

 歴史と権威ある奇術専門誌『Genii』の創刊75周年を記念して開催されたマジックの大会に参加するためにフロリダはオーランドにおります。Day2の夕方までのスケジュールが無事に終了しました。



 凄かったクロースアップ・ショウとパーラーショウが無事に終了。先生Jamyに誘われていたディナーへ出掛けることに。

 今宵出向いたのは、会場と直結したショッピングモールの中にあるイタリアンレストラン“Buca di Beppo”。先生Jamy曰く「ホテルのレストランはちょっとイマイチだし、19時からのTamarizのレクチャーに遅れる訳にはいかないから、近場のここにしてみたよ」とのこと。

 アメリカでは有名な(日本のファミリー・レストランのような)イタリアンのチェーン店で、店の内装は丁度日本にもある“The Old Spaghetti Factory”に似ています。(え!?今知りましたが、OSFってこんなに店舗が減ってしまったの!?)
 ここはコスト・パフォーマンスがかなり高いレストラン。味も悪くありません。そして量が半端無いことでも有名です。そのため、お店は大変繁盛しておりました。

 この日のディナーは、このような皆さまとご一緒でした。

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左手前から奥へ:John Carney、Roberto Giobbi、先生Jamy
右手前から奥へ:私、有名なマジッククラブの会長さん、Eugene Burger
(敬称略)

 Carneyさんは今日の演技が外的要因による不完全燃焼だったために「あまりにも客席から反応がないからタネが見えてたのかと思ったよ…演技が見えてなきゃ、そりゃ反応しようがないよね…」と、ちょっとガックリ。それを皆さんが慰めておりました。
 
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カラマリ(イカ)のフライが美味しいけど、量が多過ぎ!

 ここで面白かったのは、クリエイティビティー(創造性・独創性)に関するお話でした。丁度、私が主催している読書会の次回テーマがクリエイティビティーに関する話になるので、その時に詳しい内容をお話しすることにしましょう。
 
 イタリアンを食べながらモリモリ会話をしていたら、アッという間にTamarizさんのレクチャー直前に。皆で慌てて会場へと向かいました。



 スペインのマジックの神様、Juan Tamarizさんのショウとレクチャーは爆笑と不思議のオンパレードでした。奇術愛好家の多くは、ある意味マジックのタネをすでに知り過ぎてしまっているために自家中毒を起こしている状態になりがちで、マジックを見て驚くと言う事がほぼありません。
 しかし、Tamarizさんは満員の会場にいたすべてのマジシャンを、たった一組のカードを使うだけでノックアウトしました。あっと言う間の90分強で、マジックを始めた頃の、あの新鮮な驚きと衝撃を思い返させて頂きました。

 どれだけ言葉を尽くしてもTamarizさんのショウを言葉で伝えることは不可能ですのでこれくらいにしますが、舞台に上がった男性客が自分の上着の内ポケットに手を突っ込んで、そこにあるはずのないカードがあることが分かった瞬間の唖然とした表情がすべてを物語っていたと思います。驚きのあまり、この男性客の身体が一瞬硬直してしまったのです!

 この大会でドキュメンタリー監督として有名なカナダのDaniel ZuckerbrotさんがTamarizさんのドキュメンタリーを制作するために取材にいらしていて、いろんな方々にインタビューをしていました。

 私もそのインタビューに参加して「昨日のレクチャーはどうだった?」「Tamarizってどんな人?」と質問をされてこう答えました。

 「レクチャーは本当に信じられなかった(Un-fu*kin'-believable)」「彼はモンスターで、魔法の世界に棲む不思議な生命体で(Magical Creature)、確実に言えるのは今の時代において世界一のマジシャンだと言うこと」

 その後、個人で撮影されたときは「滅多にお目にかかれない、驚きの瞬間(Moment of Astonishment)を誰に対しても―マジックのスノッブから、一般の観客にまで―喰らわすことができる唯一無二のマジシャンだと思います」と答えておきました。

 あとでDanielさんに「Yuki、ありがとう!」と言われたので、どうやら的外れな意見ではなかったようです。



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 その次はMax名人のレクチャー。

 マジシャンの秘密兵器とも言えるあるテクニックについて、1時間じっくり解説をしました。このDVDに詳しく解説されているのですが、しかし、ライブで名人がこのテクニックを使いこなす様子を実際に見るというのはまったく違います。一言、眼福でした。

 この大会で思ったの事の一つが「本物を実際に、そのホームグラウンドで見る」大切さでした。今はすべて疑似体験ができる世の中になりましたが、本物を実際に知る経験には敵いません。表層は理解できるかもしれませんが、その奥深さまでは理解できないでしょう。

 実は、帰国後この事についてビックリした話を知りました。それはDay 3にて。

 一つ感じたのは、この秘密兵器は魚釣りやダンスの心得と同じだな、ということ。パブリックな場ですので、ここまでとしておきます。いくつか心にひっかかっていたことが解決したので、本当に勉強になりました。



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これ、本当に凄かった。

 今日最後のレクチャーはスウェーデンの若き天才、Christian Engblomさん。まぁ、本当に賢いアイデアを沢山もった方で、今回のこの大会で「あぁ、新しいことを学んだなぁ」と思ったのはEngblomさんだけだったと言って良いでしょう(何故私がこう思ったか?は、また後でじっくりと)。

 たった45分の短いレクチャーでしたが、凄く不思議なトライアンフや3人が自由に選んだカードを不可能設定の下で当てる作品など、感心することしきりでした。

 これで、Day 2の日程はすべて終了しました。



 そしてこの夜は、クロースアップ・マジシャンの前田知洋さんとずっと語り合っておりました。そして、いろいろな事を考えていました。それについては、次回からの特別編で語り尽くすことにしましょう。

 次回の更新で、ついに前田さんが満を持して登場します。お楽しみに!!

Day 2 特別編:ある秘密の断片(その1)へ続く) 

Genii 75th Birthday Bash : Day 2 (Part 2)

(→Day 2 Part 1からの続きです)

 歴史と権威ある奇術専門誌『Genii』の創刊75周年を記念して開催されたマジックの大会Genii 75th Birthday Bashに参加するためにフロリダはオーランドにおります。
 大会も2日目、午前中はユリ・ゲラーさんのレクチャーを受けたりしておりましたが、今日の午後開かれるクロースアップ・ショウに出演されるクロースアップ・マジシャンの前田知洋さんのお手伝いをすることになり、朝からドキドキが止まりませんでした…。

 さあ、打ち合わせも終わってクロースアップ・ショウが始まりました。これがまた、本当に凄かった…。



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Jonさんと共に酔ってますので!

 司会は、私が大好きなマジシャンのお1人Jon Armstrongさん。もともとDisney Worldで専属マジシャンとしてプロとしてのキャリアを始められ、コミカルなクロースアップ・マジックで評価が非常に高い方です。

 司会者としての役割も完璧で、程よく会場の空気を暖められ、なおかつ出演者の紹介も大変的確でした。幕間に演じられた4枚のエースを使ったカードマジックも非常に鮮やかでしたし、首を貫通する輪ゴムのマジックも凄く面白く、参加者からも出演者からも評判が非常に高かったです。



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この写真、このショウの直後に撮ったものでした

 トップバッターはRoberto Giobbiさん。邦訳版も出ているカードマジックの教本の名著『ロベルト・ジォビーのカードカレッジ』の著者であり、歴史家であり、凄腕のマジシャンであり、大変な美食家でもあります!
 写真をご覧になればお分かりかと思いますが、そのノーブルなオーラの出方が尋常ではありません。大きな体をくゆらして、非常に上品で楽しいマジックを演じられます。どんな高等技法を駆使するマジックでも飄々と演じられます。

 今回も非常に面白い10個のフルーツと観客から借りたお札を使った大変不思議で素敵なマジックを演じられました。



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同い年とはとても思えない!(笑)

 続いては旧友Paul Wilsonさん。多くのレクチャーDVDを出されていますので多くの愛好家の方はご存知ですが、イギリスでは「THE REAL HUSTLE」という番組で一躍TVスターとなり、映画「SHADE」(2003年)や「Smokin' Aces」(2006年)のテクニカルアドバイザーとして活躍するだけでなく、役者として出演もされています。

 今回非常に残念だったのは、Day -1でおみやげ鞄の詰め込み作業が無ければPaulさんご一家とUniversal Studio Orlandoへ行く予定だった事。丁度、Halloweenの特別イベントをやっていたのです…。

 大変不思議なカードマジックと、素敵な“シリンダー&コインズ”を演じられました。イギリスの名人John Ramsayによる非常に難易度の高い作品なのですが、4枚の銀貨が1枚ずつ指先から消えてゆき、改めた革の筒の中に見えない飛行をしていく様子はため息がでました。

 今月、日本でレクチャーツアーをされますね。一言…必見です。内容を伺いましたが、以前名古屋だけでレクチャーをされた内容に加えて、最新の面白い作品がてんこもりですよ! 「ポール・ウィルソン レクチャー」で検索されると、お近くのレクチャー情報が出てくるはずです。



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凄く素敵なご夫婦でした!

 続いてはシカゴ在住の女流マジシャンAlbaさん。もともとアルゼンチン出身で、現地で有名なFu Manchu School of Magicでマジックを習得されている本格派のマジシャンです。
 実は今回初めて知ったマジシャンの方で、どんなマジックを演じられるのか?非常に期待していました。

 「マジシャンしかいない会だから、皆さんがご覧になったことが無いものをお見せするわ!」と言いながら、3本の長さが違うロープを取り出します。これはマジシャンならほぼご存知の「3本ロープ」という有名なマジックなのです。そのため、会場からは笑いが起きます。しかし、そこからは本当に不思議に見える「3本ロープ」の手順が始まり、最後は会場から拍手が起こりました。その後のカードマジックも非常に素敵で、彼女の行う「トップ・チェンジ」は必見だと思います! たぶん世界で最高の「トップ・チェンジ」でしょう。 
 え?それは何かって??…Albaさんの演技を見てのお楽しみ!



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まぶしいのは、きっと彼の笑顔のせい!

 スペインのWoody Aragonさん。Juan Tamarizさんの薫陶を受けた新進気鋭のマジシャンです。数理的な原理を使うカードマジックに抜群の冴えを見せ、普通退屈な作品が多いこの手の作品を一級品の演技にする名人です。昨年の終わりに発売されたWoodyさんの著作は世界的にヒットして、私も大好きな本となりました。 

 先日Genii誌の付録として“Genii Poker”という大変素晴らしい作品が解説されたのですが、その予言の方法が素晴らしく「どうしてああいう終わらせ方にしたんですか?」と伺ったら、まぁその答えが本当に意外で、しかも賢くてビックリ! 他にも彼の著作やDVDに関する質問をすると、凄く親切にお答え頂きました。なんてナイスガイ!!

 Woodyさんとお話ししている最中、柔らか物腰の中に一本ピン!と筋が通っている感じ、誰かに似てるなぁ、誰かなぁ??と思っていたら、広島の畏友、治療家の鍛治中政男さんでありました。多分、鍛治中さんにお逢いした事がある方ならば、皆さん納得されると思います。特にあのツルンとしたお顔なんか、本当にそっくり! 

 クロースアップ・ショウも非常に楽しく不思議なショウでありました。あんなに不思議で馬鹿馬鹿しい“Spelling Bee”(実際はリンク先の意味なんですが、マジックですとカードの名前を綴りながらそのカードを出現させるマジックとなります)は観た事がありません!また、これが大変な戦略だったと気が付いたのは演技が終わった後でした。思わず「…これはズルイ!」とつぶやいてしまいました。



 一昨日ご一緒に作業を行ったTom Stoneさん。

 お手伝いのお客さんとして参加者のDarylさん(FISMというマジックの世界大会のカードマジック部門で優勝したことがある名人のお1人)を舞台に上げて、非常に素敵なカードマジック、“シリンダー&コインズ”、そして“カップと玉”の手順を演じられました。すべて古典的な作品なのですが、非常に独創的なアイデアを入れて一ひねりしてあり、そのクオリティの高さには本当に驚きました。



 クラシックなマジックを非常に上手く演じられたのは、昨日のレクチャーでも客席を沸かせたJohn Carneyさん。
 大きなグラスを使っての3つのボールを手から手へ見えない飛行をさせていきます。グラスの中にボールが落ちるたびに「ポーン…」と綺麗な音がたつのが非常に効果的。そして、古いイカサマの話をしながら行う“カップと玉”の手順も素晴らしかったです。最後にテーブルの上に置いてあった空っぽだった帽子の中から大きなココナッツがゴトン!とテーブルの上に落ちる様子に客席は沸いていました。

 ただ非常に残念だったのは、リハーサルであれ程ステージのクルーと打ち合わせをしていたのに、カメラがちゃんとCarneyさんを捉えていなかったため、現象が分からなかった参加者がかなりいらっしゃったのです!

 (実際、この後ステージクルーへの文句が参加者、出演者双方から多く聞かれることになります。彼らも凄く頑張っていらっしゃったのは分かるのですが、カメラマンがカメラにつきっきりでないために大事な部分を映さなかったり、客席に見えなかったり。Day 1での先生Jamyのレクチャーでも、助手として上がった観客とのやり取りは分かったのですが、テーブルの上が見えなかったために現象が分からなかった作品がありました。照明は最新式のLEDライトでしたし、モニターも最新式の液晶テレビでしたし、機材は言う事がなかったのですが…)



 このエントリーで書かせて頂いた通り、中島ゆみさんの「お椀と玉」の手順には客席からため息が漏れていましたよ!



 そして、前田知洋さん。一言で言えば、本当に素晴らしかったです。日本人としての誇りを感じたほど。どうして私がそう思ったか?――これは特別編でじっくりと!



前田さんのショウの片づけを少しお手伝いしていました。

「そうだ、Yukiさん、次のパーラーショウはご覧になりますよね?」
「えぇ、もちろんです!」
「僕の友人が出演するんです。ぜひ彼は観て欲しいなぁ」
「そうなんですね!! 期待します!!」

 そしてパーラーショウへ出向きました。これまた、本当に凄かった…。といいますか、これほどショウの内容がすべて凄いマジックの大会に参加した事はほとんどありません。



 司会はMax名人。最近では人気番組「アンビリーバボー」に登場するなど、日本でもおなじみのマジシャンです。非常に不思議なメンタリズム(超常現象や超能力のように見えるマジック)を演じる、この分野の権威のお1人でもあります。

 本当に手慣れたもので、会場を温めながら的確に進行されていきます。出演者はみなMaxさんの友人なので、その紹介の仕方も気心が知れた感じを受けて非常に気持ちのよいものでした。



 まずは、初日のレクチャーでも客席をガンガン沸かせたChad Longさん。本当にコミカルな演技で有名です。
 今日のパーラーショウは破壊的なコメディで、これはどれだけ言葉を尽くしてもその不思議さと面白さは書ききれないです。度々来日されているので、その際はぜひ!としか言いようがありません。



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本当にお久しぶりにお逢いしました!

 続いてカナダのDavid Benさん。名人Ross Bertramさん(1912年~1992年:カナダ出身の名人。テクニックを駆使して行うコインマジックやカードマジックで有名でした)の薫陶を受けた本格派のマジシャンであり、歴史家です(特に伝説のギャンブラーErdnaseとマジックの世界の神様Dai Vernon氏の研究で知られます)。最近ではNPO法人"MAGICANA"を主宰し、若手マジシャンの育成などにも力を入れられています。
  技巧派でもあるのですが、クラシカルなマジックを大変優雅に演じられることでも知られています。

 ちょこちょこメールでやりとりをさせて頂いていましたが、直接お会いするのは本当に久しぶり。今回のショウも本当に素敵で、特にバラの花束を使った“ライジング・カード”(観客が選んだカードがバラの花束の中からせり上がってきます。もちろん終わった後はバラの花束を開いて、その花をすべて観客たちにプレゼント!)が非常に印象的でした。

 Day 3に開催されたレクチャーについては、また後ほど。



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本当にナイスガイでした!

 続いてはEric Meadさん。先生Jamyの親友の1人で、本当に賢いアイデアを沢山持ったマジシャンで、ちょっと違う角度からマジックを見ていらっしゃるので一風変わった演技をされます。
 Meadさんがどれくらい賢いか?は、彼が登場したときのTEDでのプレゼンテーションをご覧になれば一目瞭然だと思います。

 この日の演技もまさにそう。3つのボールを取り出し、本当に見事なジャグリングをされたのです! 途中でマジック的な現象も入れ、たった3つのボールしか使わないのですが抱腹絶倒の10分間でした。よくある単に道具を増やしていくだけだったり、単に技巧に走るような「押せ押せ」の演技ではなく、その緩急のつけ方は惚れ惚れするくらい。
 そうだよな、ジャグラーの方がマジックを演じるなら、マジシャンがマジック的な思考を入れたジャグリングをして悪いことなんてないよな、と思いました。マジックの演技に新たな光を見た気がしました。

 そして、次に行ったゴム管と医療用のテープを使った不思議なマジックでも、会場にいらっしゃったEugene Burgerさんをいじりたおして、何の事を言っているか知ってる人たちは苦笑するしかありませんでした。



 そして、前田さんの友人、Rob Zabreckyさん。俳優として有名なだけではなく、今年マジックキャッスルから"Stage magician of the year"として表彰された実力派。前田さんがマジックキャッスルに出演された時に友達になられたそうで、普段は本当に普通のナイスガイ。後で分かったのですが、いろいろな雑誌で彼に関する記事をすでに読んでいました。まったく知らなかった!!

 しかし、一度ステージに上がるとヒッチコックの名作映画「サイコ」(1960年)に登場するバイツ青年のようなキャラクターで、とんでもないシュールなスラップスティックのコメディマジックを演じられます。これも文章では伝えられない演技。あの「何かの汁が滴るかもしれない箱」を手渡されたかった!(訳が分からないですよね?…えぇ、この演技を見ていた皆さんも訳が分かりませんでした!)
 一つだけ取り上げると、あんな素敵な「小さくなるカード」の演技はほとんど観た事がありません。

 そのセンスの良さは、確かに前田さんが「大好き!」と仰るはずでした。今回、初めて観た演技の中で印象に残った2つの演技のうちの1つでした。



 この後前田さんと落ち合って、印象に残ったマジシャンの共通点についてお話しをしていました。
 一言で言えば、そういう皆さんは「唯一無二」の存在であって、代替不可能なんですよね。もちろん、前田さんも含めて。この辺り、非常に大切なことのように思えてなりません。そして、それはこの後の特別編の中で明らかにされます。

Day 2 Part 3へ続く) 

Genii 75th Birthday Bash : Day 2 (Part 1)

(→Day 1 Part 2からの続きです)

 奇術専門誌『Genii』の創刊75周年を記念して開催されたマジックの大会、Genii 75th Birthday Bashに参加するためにフロリダはオーランドにおりました。無事に大会2日目を迎えることができましたが…。



 日本を出発する前、今回のこの大会の出演者であるクロースアップ・マジシャンの前田知洋さんとSkypeでお話していた時のこと。

「前田さん、大会では宜しくお願い致します!」
「こちらこそです」
「何か私に出来ることがあったら言って下さいね」
「本当ですか??」
「もちろんです!」
「ボク、Richardに『Yukiさんが参加しなかったら、この大会に参加しないよ!』って言ったんですよ」
「…えっ!?Σ(°□°;) 私で良いんですか??」

 今日の午後、前田さんが登場するクロースアップ・ショウがあります。前田さんのお手伝いをさせて頂くことになって、朝からドキドキしていました。

 今までいろいろなマジックの大会やレクチャーで多くの海外のマジシャンの通訳などでお手伝いさせて頂いたのですが、今回は訳が違います。

 この大会の凄い所は、マジックの目利きでもあるRichardが厳選したマジシャンが登場している点です。観客席にも素晴らしいマジシャンが多数いらっしゃる中でも、そのマジシャンたちが本当に観たいマジシャンを厳選していたのです。

 前田さんもその中の1人として選ばれて、言わば日本の看板を背負っている訳です。しかも、海外のマジックの大会に出演されるのは7年ぶり。一番近年では、2005年にイギリスで開催されたThe Magic Circleの100周年記念大会とアメリカで開催されたマジックの大会くらい。
 アメリカの若い世代のマジシャンにとっては、前田さんは本や雑誌で読んだ「偉人」のひとりであり(若い参加者の方が、実際にこういってらっしゃいました!)、演技もYouTubeで観た程度のもの。
 Richardの奥さまLizさんの言葉を借りれば「Tomoさんのアメリカでの再デビューになるかも!」ということで、参加者たちの期待は大変高いものでした。

 もし、自分が粗相をして前田さんのショウやレクチャーを台無しにしてしまったらどうしよう…その不安でいっぱいでした。



 ここ数日の日課、ゆっくり朝食をとって、ホテルの外に出て太陽の光をいっぱい浴びながらちょっぴりお散歩をして、ホテルの庭でゆったりいろんなお話しをしておりました。

「Yukiさん、僕は午前中はゆっくり過ごすことにします。Yukiさんはユリ・ゲラーさんのレクチャーに出られたら、後で話を聞かせてください。話のタネにもなりますし」
「分かりました、では午前中はそうすることにします。ショウのリハーサルは13時からでしたよね? ちょっと早めにランチにしましょうか?」
「そうですね、そうしましょう。ユリのレクチャーが終わった頃にロビーに行きますね」
「了解です!」

 9時から始まるユリ・ゲラーさんのレクチャーに参加しました。



 ユリ・ゲラーさん…そう、皆さんもご存知のスプーン曲げで有名な、あの「超能力者」であります。今でもその真贋論争は世界中で巻き起こっています。少し前ですが、こんな記事もありました。

 私の幼い頃、ユリさんは完全なTVスターでした。彼が登場する日本テレビの「木曜スペシャル」などの番組をスプーンや壊れた時計を持ってワクワクしながら見ていたものです(1974年の3月7日に放送されたのが最初だったようです。私は5歳ですね)。そして、スプーンは曲がりませんでしたし、時計も動き出しませんでした。

 ユリさんは今でもTVスターであります。先日はフジテレビの人気番組「ほこ×たて」に登場して「絶対に曲がらないスプーン×どんなスプーンでも曲げる超能力者」としてスプーン曲げにも挑戦されています(こんなニュースもありました)。このときも、結局スプーンは曲がりませんでした。

 今でも世界中で話題になるユリ・ゲラーは、一体どんなレクチャーをするのか?…大会の初日から参加者たちの間で話題になっていました。

 9時前から会場はほぼ満員の状態でした。部屋の中には超能力などへの懐疑論者たちも沢山いらっしゃいました。誰もが興味深々で9時が来るのを待っていました。

 そして、レクチャーが始まりました。



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舞台中をエネルギッシュに歩き回られるので、写真をうまく撮れません

 まずは自分の名前の話しから(“ユリ・ゲラー”っていう発音では無く、実際には“オリ・ゲラー”と言う感じに近い発音)始まって、自分の生い立ちから現在に至るまでの人生を様々な映像や資料を見せながら、自分の人生経験と成功譚を絡めて“夢の大切さ”と“自己実現”のために“人に影響を与えるような何かをしなくてはならない”ということについて、そのための施策を「広告」「マーケッティング」などの観点からユーモラスにかつ情熱的に語った90分間でした。自分が今までした失敗の数々まで、包み隠さず語りつくしました。

 途中でメンタリズムを3つ演じられたのですが、あれ程「完璧な」メンタリズムのショウを観た事はほとんどありません。あの感じで演じられたら、「超能力」の存在を信じる人がいたとしてもなんら不思議ではありません。 これはライブで演技を見ない限り、どれだけ私が言葉を尽くして文章にしたとしてもあの感覚は伝わらないでしょう。
 もしユリさんの演技をYouTubeなどの動画で観て「演技を見た」気になったとしていたら、それは大きな間違いです。
 エンターテインメントとしてのユリさんのショウは、本当に素晴らしいものでした。

 もう今は見えなくなってしまっていますが、この大会のウェブサイトには“Uri Geller Will Mesmerize You(ユリ・ゲラーは、あなたを魅了するでしょう)”という宣伝文句が掲載されていたのですが、まさにその通り。参加者の多くは彼に完全に魅了されました。なんと、2回もスタンディング・オベーションが起こりました。

 彼のレクチャーのレビューを読んだり、参加者の方のお話しを伺ったりしますと、皆さんとても感激されています。

 私は?と言いますと、凄く複雑な心境だったというのが正直なところでした。

 以下に書くことは、あくまでも私が素直に思った感想です。私の考えを読者の皆さまに押し付ける気も、特定の誰かを毀損する気も毛頭ありません。それを前提にお読みください。なんなら、読み飛ばされても構いません。




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まさかのツーショット!

 確実な事を言いますと、ユリさんは本当にナイスガイでした。そうとしか言いようがありません。

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 まずは体格。66歳とは思えない若々しさなのです。今でも確実に「色男」(ちょっと古い言い方ですが“ちょいワルおやじ”系ですね)の分類に入る容姿です(もともとモデルとして活動されていました。モデル時代の古い写真や広告は場内爆笑でした!)。

 写真やサインには気軽に応じ、誰に対しても本当に親しく語りかけ、相手の話や夢を真摯な態度で聞き、それに対して自分の経験を絡めてテンポよく身ぶり手ぶりを交えてアドヴァイスを与え、「質問があればメールで送ってくれ、すぐに答えるから」と言ったら本当にそれを実行されるのです。
 この日はこの後5時間近くロビーに居続けて、その間多くの参加者からの質問などに対応されていました。そのサービス精神には誰もが驚いていました(ホテルのスタッフさんまでビックリされていました!)。

 私とのツーショットの写真をご覧頂ければ分かるのですが、相手に対して物凄く近づいて話されるのです。印象としては、自分のフィールドにグッ!と入っていらっしゃった感じです。「スター」自らこんなフレンドリーに対応されたら、誰もが心をギュッ!と掴まれてしまうでしょうね。
 実際にお話しさせて頂くと、話には凄い説得力があるように感じましたし、非常に信頼のおける人物である印象を受けました。

 そして、それ以上に周囲の人をうまく巻き込む術と人心掌握術に非常に長けた方なんだなぁ、と思いました。

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こんな感じで、いつもエネルギッシュ



 レクチャーの内容は、上記に書いた事を読んで頂ければご理解頂けると思いますが、よくある「自己啓発セミナー」に非常に近い内容であるように感じました。リンクしたWikipediaにもありますが、こうしたセミナーには問題点があまりにも多過ぎます。

 基本的に自己啓発というものの多くは「それを主催している人物のキャリアアップと生計を立てる」ためのものであって、「それに参加している人々のキャリアアップや人生を向上させる」ためのものではないと私は思っています。

 今、SNSの世界を中心に怪しい自称「コンサルタント」が乱立して、書店には自己啓発本が山のように積み上げられています。しかし、誰も「本当に成功する方法」など書いていません。たとえばデール・カーネギーさんなどによって昔からすでに語られ尽くされた内容を焼き直して、そこに最新の情報を加えているだけです。

 仮にそこに「本当に成功する方法」が書かれてあったとしても、講演会で語っていたとしても、それはその著者やコンサルタントが成功した(ある意味特殊な)方法だっただけであって、その方法が誰にも当てはまるものではないことは明らかです。世の中に成功者が雨後のタケノコのように出現しない事実を見たら一目瞭然のはず。
 多くの場合こうした「自己啓発」の著者やコンサルタントは、社会的に成功していないケースが多いように思います。逆に「この本」で名前を売って有名になってやろうと言う商売っ気だけを感じます。

 レクチャーの中でユリさんは「自己実現しなくてはならないのは、有名になって金持ちになれば何でもできるから」と語りました。確かにそうかもしれません。お金はどれだけあっても困りませんし、名声があれば言う事はないかもしれません。しかし、それがその人の人生の質を向上させるのでしょうか?

 最近、自己啓発の甘言に酔ったような、何も基礎力や実績がないのに「有名になりたい」とか「大きな夢に向かって活動する」などとSNSなどで語る若い世代が多くの分野で散見され、またそれに対して無責任に励ます大人もいますが、大変危険なことだと思います。
 最近教えて頂いた「まとめサイト」にあったこの記事を見れば、こうした行動様式がどれだけ薄っぺらいものか一目瞭然でしょう。私がこよなく愛する編集者であり著述家の松岡正剛さんのような重厚な「知の巨人」が今後どれだけ現れるのか…どうなのでしょうね?

 そして、こうした若者たちがその夢に破れた時、有名になれなかった時、金と名声を得られなかった時、いったいその後の人生を如何に進んでいかれるのでしょう? こうした無責任な大人たちが、そういった若者に対する責任を取るとはとても思えません。
 私の畏友が「あまり良くない創作物に対して必要以上に“イイね”と言う人たちというのは、その人たちにとってその製作者が“都合がイイね!”ということなんだと思うのです。都合よくそいつらを利用してやろう、と思っているとしか見えないですよね」と言った言葉、かなり的を射ているような気がします。

 ありがたいことに、今まで数多くの一流と言われる演技者や研究者にお逢いすることができました。その皆さんに共通して言えることは、自分の力を客観的に認識しながら、地道な努力を正直に愚直に長年にわたって楽しんでされてきた、ということです。そこに曖昧さや抜け道はないに思えます。そう、A地点からB地点までの一番の近道はあくまでも直線距離であって、そこに曖昧さや抜け道はないのです。

 アメリカの有名なゲームショウの司会者Monty Hallさん(確率論の「モンティ・ホール問題」で有名ですね)が語ったと言われている言葉が頭から離れません。

"Actually, I'm an overnight success. But it took twenty years.(実はね、私は一夜にして有名になったんだ。でも、それには20年かかったよ)"




 何より「…」と思ったのは「超能力」という「力」の真贋については一言も語らず、その「力」を肯定する(決してこう話さず、あくまでも印象を与える)形で話を進めていくのです。これは前のエントリーでも書きましたが、非常に不誠実な態度ではないのか?と思います。
 ユリさんのショウは「エンターテインメント」のショウなのに、事実をニュートラルに伝えなければならないはずの「マスメディア(特に報道)」の世界において「自分の持っている力だ」として言ってしまうのは、どう考えても心の中にモヤモヤが残ります。少なくとも、その「力」を客観的に検証する必要があるでしょう。

 非常に驚いたのは、凄く有名で非常に論理的で賢いとある有名なマジシャンさんでさえ諸手を挙げて「彼の力は本物だ」と私に語ったこと。心の中で「ちょっと待って下さいよぅ…」と思わずつぶやいてしまいました。



 ユリさんのレクチャーの後、心理学者で懐疑論者のRay Hymanさんに少しお話しを伺ったのですが、Hymanさんはもっと過激な意見を仰っていました。完全には同意しかねたのですが、それでもなんとなくその意見に納得がいきました。
 これ以上のお話しは、直接お会いした方にお話しするとしましょう。

 もちろん、夢を持つことは大切ですし、自分を奮い立てなければならないことも生きていれば何度もあります。しかし、少なくとも私はユリさんが今回この会場で行ったレクチャー内容からはちょっと距離を置きたいと思います。
 たとえ、彼が幼い頃のTVスターであって、素晴らしい演技者であって、いかにナイスガイであったとしても。



 もう一度:これは、あくまでも私が経験したことに関する私個人の素直な感想です。私の考えなどを読者の皆さまに押し付ける気持ちや特定の誰かを毀損する気は毛頭ありません。読者の皆さま各人で、良くお考え願えたら幸いです。




 ロビーに出たら、前田さんがいらっしゃっいました。

 午前中は会場のホテルショッピングモールが直結している入口の横に合ったエステサロンでマッサージを受けられて、非常にリラックスされていたそう。私も気持ちを切り替えて、ショッピングモールでランチに!

day2lunch.jpg
この日は、なんちゃってチャイニーズ!
味のない炒飯を食べた事はありますか?

 食事を終えて帰ろうとした時「Yukiさん、ここのソフトクリームってご存知ですか?」と紹介されたのがDairy Queenというお店。
 知らなかったのですが、東京を中心に根強いファンが今でもいらっしゃるハンバーガーとソフトクリームショップで、2004年に日本から撤退していたそう。名古屋にもあったみたいですが、どうやら郊外にしかなかったみたい。

「甘いもの大好きなYukiさんなら絶対にご存知かと思っていました」
「食べた事がないので是非トライしてみたいです!」
「作り方が変わってるんですよ、是非観て下さい」

icecream.jpg
じゃーん!

 これ、コーンの中に独特な形になるようにソフトクリームを載せたら、そのまま液状のチョコレートシロップの中にドボン!とディップ。

「前田さん、これ、クリームが溶けないんですか!?」
「まあ、Yukiさん、良く見てて!」

 チョコレートシロップはほぼ常温で、そこの中にソフトクリームを漬けるとチョコがコーティングされた状態になって、なおかつソフトクリームに冷やされてパリパリに!

 ソフトクリームそのものもコクがあって、非常に美味しかったです。その後、このDQを街で見かけるとついソフトクリームを注文することになりました。日本から撤退したことを残念がる方が多いと言うのも非常に納得。

 さあ、ついにクロースアップショウの時間が近づいてきました!

(Day 2 Part 2に続く)
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Author:yuki_the_bookworm (a.k.a "べたねば")
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